ソーシャルワークを語る

「制度よりも利用者の声に応える高齢者施設を目指して」 小規模デイサービス・宅老所千葉県連絡会代表、NPO法人井戸端介護代表 伊藤英樹 氏

伊藤さんはソーシャルワーカーという仕事に対して、どのような考えで取り組んでいるのでしょうか?

いつも考えているのは、“必要とされていることに対して、自由に取り組みたい”ということですね。これは以前施設の中で働いているときに感じたことなんですが、やはり決まりきった日課の中で一日を過ごすというパターンがあったら、そこから抜けられないものなんです。これは障害者施設だけでなく、高齢者施設でも同じ。入浴とおむつ交換に追われて、もうそれだけが仕事みたいな感じになりがち。

あらかじめパターン化している方が、スタッフにとっては確かに楽なのですが、でもそれでは、その施設の利用者一人ひとりの個々のニーズには、全く合ったサービスができていない場合が多いのです。

その個々のニーズをちゃんと見極めるには、結構難しいような気がするのですが。

そうですね、パターン化した枠があったら、なおさら難しいでしょう。そこでこの枠を作らないために、私が代表を務めている施設・宅老所“井戸端げんき”では、パターン化したメニューとかプログラムを設けないようにしています。

だから、初めて働きに来たスタッフは、自分が何をしていいのか分からなくて戸惑っていますね。でもしばらくすると、少しずつ自分がすべきことが見えてくるんですよ。

結局、メニューがないから、どういうことしてあげたら役にたてるんだろう、喜んでもらえるんだろうと自分で考えて探し始めるんです。

社会福祉制度を学ぶということは、先ほどからおっしゃっている枠を非常に意識するところもあるかと思うのですが、枠にこだわらないでやっていくためにはどうすればいいのでしょうか?

本来ソーシャルアクションとは、制度を動かし、社会を動かし、よりニーズに合ったもの生み出していくといった意味があります。ですが、社会に出てからは逆に自分の方から制度の中に身を置いてしまう傾向がある。いち施設の中でのソーシャルワーカーとしての働きしかできなくなってしまう場合が多いように感じます。これではとてももったいないし、つまらない。

もっと広い視野でソーシャルアクションって何なんだろう? ソーシャルワーカーって何なんだろう? と考えたときに、何ができるのか、どんなことが可能になるのか、いま一度振り返ることが必要でしょう。そうすれば自然とより良い制度を作っていくことや、社会全体を良くしていくことに、次第に直接的につながっていくと思います。

ニーズに基づいてやっていくこと。それができなければ自分で工夫していくのが本来の役目だというところに立ち返ればいいわけですね。

そうなんです。ソーシャルワーカーは本来非常に自由な職業なのですから。利用者の尊厳を優先順位の一番にもってくれば、制度なんて二の次になるはず。制度よりも利用者のため、社会のニーズに応えることの方が重要であると思えなければ務まらないでしょう

これからソーシャルワークを学ぶ後輩たちに、伝えたいことは?

自由に、本当に必要なことをやっていけるような自分を作っていってほしい。この一言に尽きますね。

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伊藤英樹

略歴

1995年 日本社会事業大学社会福祉学部卒業。

「制度の枠にとらわれず、人として向き合う介護がしたい」と、千葉県・木更津市に、古い民家を利用した宅老所「井戸端げんき」を開設立。

ほかに、宅老所「かっぱや」、デイサービス「縁側よいしょ」を運営している。

周辺症状が出て介護が難しい認知症のお年寄りや、統合失調症、失語症など、様々な悩みをもつ人たちや会社勤めに行き詰まったサラリーマンや、仕事に追われてうつ病になった看護師など、自分自身も悩みをもっているスタッフなど、“ごちゃまぜ”の人間関係のなかで、それぞれが「その人らしさ」を取り戻し、他の施設では見られないようなつながりが生まれている。

ここでは介護する人たちも明るさとやりがいを見出し、お年寄りたちと一緒に有意義な日々を送っている。