平成22年度
実習先と共に構築するスーパービジョンと実習マネジメントに関する研究
― 一人ひとりの学生の主体性や実践力を育む相談援助実習をめざして ―
研究代表者氏名 | 社会福祉学部 准教授 蒲生俊宏 |
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研究課題 | 実習先と共に構築するスーパービジョンと実習マネジメントに関する研究 ― 一人ひとりの学生の主体性や実践力を育む相談援助実習をめざして ― |
研究結果の概要 | 本研究では、相談援助実習学生の変容の実態を学生のアンケート調査、養成校教員のインタビュー調査、実習先指導職員のヒアリング調査の結果から分析し、そこから相談援助実習教育におけるスーパービジョンや実習マネジメントのあり方を考察し、新たな視座を開発することを目的としている。 今年度においては、2010年度に行った3大学(北海道・関東・甲信越)の社会福祉士実習生のアンケート調査結果より、「実習後社会福祉士として働く意欲がわいた」という問いにたいして否定的な回答とした学生の特徴についてまとめ、悪循環の構造があることを明らかにした。また肯定的な回答をした学生の中で、負の因子をもちながら実習職員・教員のアドバイスや対応によって、実習や学習のモチベーションを高めた事例を分析し、学生が求めているスーパービジョンの方法として、支持的機能・教育的機能・管理的機能の三つが示された。特に多かったのは第一に支持的機能であり、話しやすい雰囲気や、不安や悩み・バーンアウトの対応など個別状況に合わせた励ましや積極的肯定が学生の自信につながり新しい気づきや発見を見出していることが明らかになった。 養成校教員(5校)のインタヴュー調査では、養成校教員のスーパービジョンの内容や実習マネジメントの体制について調査し、一覧にまとめた。現状としてはトラブル対応のマニュアルはなく、スーパービジョンの体制や指示系統・定例会議の位置づけが不明確である点が課題として示された。 実習先指導職員のグループヒアリング調査(14名)の結果としては、最近の学生の状況として、知識が不十分、目的が不明確、主体性が欠如、将来福祉分野に行く気がないなどの問題点が抽出された。スーパービジョンのスタンスとしては、ソーシャルワーカー養成として、第一に人間性の教育を基盤とし、第2に専門職養成であることが強調されていた。その方法としては、学生の希望を重視し、苦手な部分をサポートして、得意な部分を伸ばすという支持的機能が基盤となっていた。支持的機能・教育的機能・管理的機能のそれぞれを明確に区分することは難しく、3つの機能が有機的に融合してスーパービジョンが可能となることが調査結果より示され、それを基に相談援助実習生のストレングス支援モデル2を開発した。 |
研究成果の活用・提供予定 | 研究の成果は報告書という形で示したが、これをできる限り多くのソーシャルワーク関係者に配布することを考えている。 また、研究の過程においても上記四つの団体の代表者などを講師として招きシンポジウムを開催し、多領域ソーシャルワークの実践の可能性を市民活動から学ぶ機会を持つなどした。 本研究の成果が、ソーシャルワーク専門職の実践のあり方を問いかけるきっかけとなるよう、さまざまな機会をとらえて論じることとする。 |
「認知症高齢者に配慮した施設環境づくり支援プログラム」の全国レベルでの普及を目的とした実践研究に基づく教材開発
研究代表者氏名 | 社会福祉学部 教授 児玉桂子 |
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研究課題 | 「認知症高齢者に配慮した施設環境づくり支援プログラム」の全国レベルでの普及を目的とした実践研究に基づく教材開発 |
研究結果の概要 | 研究Ⅰ:「認知症高齢者に配慮した施設環境づくり支援プログラム」に基づく施設環境づくりの実施と効果の評価 1)東京都内4施設(特養)で施設環境づくり支援プログラムを用いた介入研究を1年をかけて実施した。21年度は環境づくり前の評価を行ったが、本年は環境づくり後について、「多面的施設環境評価尺度」、「RHRFストレスチェックリスト」、「認知症高齢者の行動評価表」等で評価を行い、環境づくりの効果を明らかにした。環境づくりが、職員の認知症ケアへの気づきやスキルの向上、物理的環境の改善、職員や認知症高齢者のQOLの向上など多くの効果をもたらすことが確認された。ただし環境づくり直後の効果は限定的であり、高齢者が環境に馴染むまで継続的に評価する必要性が明らかになった。 2)熊本県における3施設(特養・グループホーム・小規模多機能)の環境づくりを支援した。特養における実践研究成果は熊本県施設研究発表会で銀賞を受賞した。 3)台湾国立雲林科技大学曽研究室が嘉義市にある2カ所のナーシングホームで実践した環境づくりを支援した。この実践研究成果も、台湾建築学会で受賞した。 研究Ⅱ:施設環境づくり実践研究成果に基づく教材開発 1)これまでの蓄積してきた研究成果も加味して「PEAPに基づく認知症ケアのための施設環境づくり実践マニュアル」を中央法規から出版した。内容は環境づくりの手法に関する解説編と実践事例から構成される。 (解説編) ステップごとに具体的な実践手法およびそのための思考やコミュニケーションを助ける多様な環境づくりツールを掲載した。 (1)ステップ1:ケアと環境への気づきを高める (2)ステップ2:環境の課題を捉えて、目標を定める (3)ステップ3:環境づくりの計画を立てる (4)ステップ4:環境づくりを実施する (5)ステップ5:新しい環境を暮らしとケアに活かす (6)ステップ6:環境づくりを振り返る (実践編) 特養/ショートステイ/グループホーム/デイサービス/老健/精神科病棟における実践事例を取り上げた 2)「認知症高齢者に配慮した施設環境づくり実践マニュアル(CD版)」の日本語版と英語版をナレーション付きで作成した。以下の6部構成であり、多くの視覚的資料を取り入れ、分かりやすい工夫を行った。 (1)認知症高齢者に配慮した施設環境づくり支援プログラムとは (2)認知症高齢者への環境支援指針(PEAP日本版3) (3)キャプション評価法 (4)ケア環境のインテリア (5)施設環境づくり事例1:職員の工夫による小規模な環境づくり (6)施設環境づくり事例2:従来型からユニットへ大規模な環境づくり 研究Ⅲ:開発した教材を用いた環境づくり教育・研修プログラムの開発と評価 1)現場の実践者向けに効果的な研修プログラムを開発して、練馬介護人材育成・研修センターにおいて、基礎研修(2回)とリーダー養成研修(6回)を実施した。 2)認知症介護実践者を対象に基礎研修プログラム(遠隔地における研修プログラム)を開発して、長野県上田市で実施した。今後も継続的に取り組んでいく予定である。 3)福祉環境支援法(専門職大学院・公開講座)における講義で、2日間の集中かつ多様な受講者向けのプログラムを開発した。 4)学部介護福祉コース家政学住居(講義・演習)において、環境づくりプログラムの一部を適用して、学生が高齢者施設の環境アセスメントを行い、それを現場にフィードバックする教育プログラムを実施した。 開発した教材が体系的に構成され、環境づくりを支援する多様な研修ツールが用意されている点などから、高い研修・教育効果が得られた。 研修を受講した多くが自施設で環境づくりを実践し、さらに地域で環境づくり研修を主催する例がみられた。 |
研究成果の活用・提供予定 | 1)「認知症ケアのための環境づくり実践マニュアル」に基づく連載を介護雑誌に1年間12回(おはよう21)掲載して、普及に努力。 2)広く視聴されている環境づくりHP(http://www.kankyozukuri.com)上に、成果を掲載。 3)認知症介護研究・研修センターの指導者研修等において、テキストに使用。認知症介護実践者研修の資料としても活用される。 4)自治体や専門職団体(練馬区、上田市、熊本市等)が実施した研修においてテキストに使用。 5)大学教育(専門職大学院、日本社会事業大学学部、有明医療大学等)においてテキストに使用または一部を使用。 6)福祉系大学図書館に提供。 7)日本建築学会、日本認知症ケア学会、国際デザイン学会(英語版)等の高齢者ケア専門家に提供。 8)認知症ケア環境づくりを実践する(したい)施設に提供。 9)研究成果は、日本建築学会、日本認知症ケア学会、国際環境デザイン学会等に論文発表の予定。 以上のように、実践マニュアルの出版と雑誌掲載により、急速な普及が見られる。 |
更正保護施設における実習の在り方に関する研究
研究代表者氏名 | 社会福祉学部 客員教授 御厨勝則 |
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研究課題 | 更正保護施設における実習の在り方に関する研究 |
研究結果の概要 | 実習プログラムを網羅的に仮説として提示したが,更生保護施設の場合,あらかじめ体系的にプログラムを組むことは困難であり,適宜プログラムの中から実習項目を選択する方法を採らざるを得なかった。 その結果,プログラムの内容において妥当性を欠いたものはないが,被保護者を理解する上でのアプローチが不十分であったと思われる。その原因は,日中は就労している被保護者が揃うのは,夕刻以降になること,守秘義務を強調するがゆえに,ケース記録の閲覧や面接が消極的に運用されたことによるもので,今後,最も工夫を要する事項である。 実習対象学生が編入4年生で,「更生保護制度」の講義履修前であったことから事前学習が不備であり,実習体制として決して望ましくなかったが,本年度から学部3年前期に同科目が設定されたことは評価される。 更生保護施設に配置されている社会福祉士等の役割や児童ソーシャルワーク実習の実績を踏まえた考察は,今後の課題として残された。 |
研究成果の活用・提供予定 | 研究成果は,更生保護施設及び実習対象学生に提供し,今後の実習の内容及び方法の改善又は進展に資したい。提供先は次のとおりである。 (1)実習先として登録している首都圏更生保護施設8か所等 (2)更生保護施設を実習先として選択した学生 (3)実習教育研究・研修センター教員及び更生保護施設に巡回指導に赴く教員 (4)その他(更生保護施設を実習先として登録している関係大学) |
社会福祉実習教育における総合的な実習プログラムの作成及び教材開発に関する研究
研究代表者氏名 | 社会福祉学部 教授 高橋流里子 |
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研究課題 | 社会福祉実習教育における総合的な実習プログラムの作成及び教材開発に関する研究 |
研究結果の概要 | 通信教育課程の受講生のうち2078名を対象とし、郵送法による自記式調査票を用い調査を行った(有効回答数693、回収率42.1%)。 調査の結果、卒業者の81%が社会福祉士国家試験に合格し、卒業生の87%が現在も福祉領域で活動していること、卒業生の8割以上が受講についてキャリアアップに役立ったと述べていること、通信教育科卒業後に職場において専門的、管理的立場に就く傾向や、新たに介護支援専門員、精神保健福祉士の資格を取得する傾向などがみられた。このことから、専門職の養成、福祉人材の定着と参入、キャリアアップ・キャリアパスへの貢献といった通信科の果たした役割が改めて確認された。 一方、卒業生の約7割は、研修に参加したいという学習意欲があるにも関わらず、全体の約半数には現状として研修の機会がないこと、学習の機会があった者でも1年に1回以下であるものが4割にのぼるなど、卒業生、福祉実践者にとっては研修の機会が十分にあるとは言い難い状況にあることがわかった。 |
研究成果の活用・提供予定 | 実習教育研究・研修センターにおける実践者向けの研修事業の内容の検討活用予定 |
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