社会福祉実践研究(令和6年度)
研究代表者
小原 眞知子
研究課題
『アジア諸国におけるソーシャルワーク専門職養成の実態と課題に関する国際比較研究:資格保持者の登録制度の進展』
研究結果の概要
アジア・太平洋のソーシャルワーク専門職には、これらの社会福祉的課題に対応できる力量が求められている。
日本、他のアジア諸国から学び、専門的な知見の共有を促すことで、アジアのソーシャルワーク専門職養成および専門職制度の進展に貢献することが期待される。この目標を達成するためには、各国のソーシャルワーク専門職養成の背景と登録制度の進展を含めた現状を把握し、その特徴とニーズを理解することが前提とされる。
今年は、昨年度から継続している研究成果をウェビナー開催すること、報告書作成することで提示することを目的とした。具体的には、アジア・太平洋地域におけるソーシャルワーク専門職養成、特に資格保持者の登録制度の進展状況を含めた実態と課題を明らかにすることを試み、今年度はそれらの総括をした。
国際ソーシャルワーカー連盟(IFSW)と国際ソーシャルワーク学校連盟(IASSW)は、2004年にソーシャルワーク教育のグローバル基準を定めている。しかし、特にアジアを含め、ソーシャルワーク専門職養成は各国の歴史的・社会的・政治的・文化的な文脈と教育体系によって大きく異なっていることから、この研究をもとにアジア・太平洋のソーシャルワークのグローバルスタンダード作りの基本となるファクターを模索したい。
研究枠組みとしては、以下の5点となる。対象国は以下の15か国になる。
- 歴史的・社会的・政治的・文化的な背景
- 養成カリキュラムや資格・登録制度及びこれらに関する法整備の状況
- 養成教育における実習の実態
- 就職先の確保と雇用状況
- 現在の問題点と今後の方向性
研究代表者
壬生 尚美
研究課題
特別養護老人ホームにおける利用者の生活とケアの変遷に関する調査研究
研究結果の概要
目的
本研究は、特別養護老人ホームの創設(昭和38年)以降、ケアが時代とともに変遷する中で、利用者の生活やケアが具体的にどのように変化してきたかを、時代背景や社会的動向を踏まえて、施設の刊行物や職員から聞き取り調査をすることによって、利用者の生活を軸にして日常生活のケアの工夫、多職種連携、地域とのつながりについて明らかにすることを目的とした。
方法
昭和29(1954)年に「新生活保護法」に基づく生活保護施設の養老施設を創設し、昭和43(1968)年に特別養護老人ホームを開設した施設に、長年勤務している職員5名を対象とした。記念誌等の刊行物を参考に、令和6(2024)年8月~11月の期間に、開設当時から今日に至るまでの介護・ケアの実践について聞き取りを行った。日本社会事業大学社会事業研究所研究倫理委員会の承認を得て実施した(審査番号:24-0202:承認日:令和6(2024)年7月8日)。
結果
昭和43(1968)年に50床で開設した当初は、全国の特養の整備状況(全国社会福祉協議会、1982)と同じく、6人~8人部屋の生活環境から始まり、社会的なニーズに対応していく中で、定員を増床し、生活環境も4人部屋の多床室や従来型個室の環境に移り変わっている。その後、平成12(2000)年に介護保険制度が始まり、調査施設は翌年より220床で18ユニットによる個別性を重視した包括的ケアを導入している。職員のこれまでの集団ケアに関する考え方と取り組みを一変させた。しかしながら、その後人員の不足感により、部分的に介護体制を見直す検討がなされ、近年にはグローバル人材を採用し、介護福祉士資格取得に向けたプロジェクトを立ち上げサポートしている。更に、令和2年の新型コロナウイルス感染症の流行により、施設外活動が制限される中、生活を豊かにする取り組みも見られ、令和5(2023)年に感染症5類に移行したことで、徐々に活動が戻りつつある。近年、インカム等が導入されるなど、今後はICTの導入により新たなケアが期待されている。
このような施設の経年変化を踏まえ、利用者の心身の状態の変化やケアの質を担保するための工夫、食事やリハビリテーション・アクティビティ、認知症のある利用者へのケア、感染症対策などを通した多職種連携の実際や、職員研修・教育体制の充実等について、多くのことが語られた。
また、開設当初から地域とのつながりが強く、利用者と地域住民が相互交流できる機会を設けており、ボランティア活動を積極的に行っている。昭和54(1979)年には、在宅介護サービスに向けた施設の機能の社会化を進めるなど、地域における高齢者福祉の拠点になっている。
考察とまとめ
調査施設は、地域とのつながりを重視し、様々なグループ活動や行事等を通じて地域との交流を図り、関係性を継続してきた。今日に至る介護保険制度では、利用者の尊厳と自立の理念のもと措置制度から契約となり、個室・ユニットケアの基盤整備、身体拘束ゼロ作戦の推進など、時代の流れに沿って、調査施設も大きくケアのスタイルを変化させることになった。近年はインカムを導入するなど、介護業務の改善・効率化が期待されている。また、コロナ感染症等の感染症対策をしながら利用者のケアの質に貢献する取り組みがなされてきた。このような時代背景や社会情勢により、施設ケアは大きな変化をしている。特に、歴史ある特養の変遷を調べることにより、その施設の特徴や当時の職員の思いも含めて、利用者への支援の実際について具体的に知ることができ、介護・ケアのあり様を事実からのエビデンスとして示すことができるものと考える。令和の時代になり、介護保険制度前の措置制度におけるケアの実態について語れる人が徐々に少なくなっている今だからこそ、介護の変化・変遷を掘り起こす価値があるものと考える。
研究成果の活用・提供予定
《報告書》
- 壬生尚美・森千佐子・菱沼幹男(2024)「特別養護老人ホームにおける利用者の生活とケアの変遷に関する調査研究」『日本社会事業大学社会事業研究所共同研究助成費報告書』令和7年3月.
《学会発表》
- 壬生尚美・森千佐子・菱沼幹男(2024)「特別養護老人ホームにおける利用者の生活とケアの経年変化―職員へのインタビューを通して―」『第24回人間福祉学会大会』2024.12.14.
- 壬生尚美・森千佐子・菱沼幹男(2024) 「特別養護老人ホームにおける利用者の生活とケアの経年変化―地域とのつながりに見る施設機能と役割―」『日本老年社会科学会第67回大会』2025.6.(予定)
研究代表者
二神 麗子
研究課題
聴覚障害児支援に特化したスクールソーシャルワーカー向け研修カリキュラムの開発
研究結果の概要
得られた研究成果
主に下記の2調査を行った。①聾学校でのスクールソーシャルワーク(SSW)を行っている手話のできるソーシャルワーカー(SWer)に聾学校が持つ特有の課題の聞き取り調査と申請者自身による実践調査。②手話言語条例に基づく施策推進の検討委員会への参与観察、関係者との意見交換。
その結果として、①「手話言語条例」の条文に「乳幼児期からの切れ目のない相談支援体制の整備」と記載されたものの、手話施策推進を検討する委員会の「当事者」として参画する者は成人聾者であるため、乳幼児期の聴覚障害児の関係者ではなく、また乳幼児支援の専門家でもないため、乳幼児期から続く家族を含めた総括的な支援課題について深く触れられることがほとんどないこと、②療育・教育分野への提言がほとんどされないために、SSWを聾学校で導入するための予算付けがなされないこと、③支援者の専門性の課題が挙げられた。
研究の限界
一方で、研究協力を依頼している「日本聴覚障害ソーシャルワーカー協会」は、2024年1月1日に発生した令和6年度能登震災における被災地の聴覚障害者支援のために奔走した1年であったため、聾学校支援を行っているSWerへの聞き取り調査の依頼をすることができなかった。また、同協会での研修会も災害支援に関するテーマが中心となってしまったため、SSWをテーマとした研修会を実施することができなかった。
研究成果の活用・提供予定
【研究成果提供済みのもの】
- 2025年2月11日「第26回東京都のろう教育を考えるフォーラム」にて、「ろう学校におけるスクールソーシャルワークの必要性と意義について」というテーマのもと、「全国聴覚障害者相談支援事業『なかま』におけるろう学校SSW活動」というテーマで実践報告を行った。また、共同研究者の内田先生は同フォーラムの基調講演を行った。
【研究成果の活用・提供予定】
- 日本特殊教育学会第63回大会にて、ポスター発表を行う。
- 日本聴覚障害ソーシャルワーカー協会内の自主研修会を通して支援者の養成を試験的に実施する。
研究代表者
木戸 宜子
研究課題
地域共生・多文化共生社会に向けたソーシャルワーク実践・教育モデルの開発
研究結果の概要
国際社会に通用するソーシャルワーカーを養成すべく、地域共生・多文化共生及びソーシャルワーク実践・教育に関する課題共有、交流のために、マギル大学社会福祉学研究者と日本社会事業大学研究者とのオンラインセミナーを実施した。ソーシャルワーク教育、多文化共生、高齢者支援、障害者支援、災害・コミュニティソーシャルワーク、子ども家庭支援をテーマに、プレゼンテーションとディスカッションを行い、日本・カナダの文化や制度・仕組みの異なる中でのソーシャルワークの特性及び、共生や人権など普遍的視点を確認した。
研究成果の活用・提供予定
オンラインセミナーとしておこなった、プレゼンテーションとディスカッションは、本学ホームページでオンデマンド配信し、併せて資料掲載を行った。紙媒体の報告書も作成し、日本ソーシャルワーク教育学校連盟、日本ソーシャルワーク学会をはじめとする関連団体に送付提供した。
研究代表者
有村 大士
研究課題
アジアにおける子ども家庭福祉領域における子どもの意見表明と当事者参画型実践について
研究結果の概要
子どもの権利委員会からの各国への主な勧告を整理すると、以下のような課題が抽出された。
- 日本:周縁化された子どもへの対応、意見表明権の保障、いじめ防止対策の強化、障害児への包括的支援の推進など
- 韓国:家庭内暴力の防止、孤立した青少年への支援、教育格差の是正など
- インドネシア:児童労働への対応、貧困地域における教育と医療へのアクセス向上など
- バングラデシュ:早婚の防止、女児の教育機会拡大、ストリートチルドレンの保護など
- フィジー等の太平洋諸国:気候変動による子どもへも影響への対策、遠隔地での教育機会の確保など
各国の社会保障や経済状況、政治的安定などにより、大きく内容が異なっていた。
各国の勧告を踏まえ、意見表明県の保障、教育へのアクセス格差、児童労働と搾取、早婚とジェンダー不平等、気候変動の影響、メンタルヘルスの課題などが地域共通の課題が整理された。
研究成果の活用・提供予定
国際交流の企画やスタディーツアーへの反映と共に、学内研究企画においても共有、活用する予定である。