厚生労働省老人保健健康増進等事業等(平成23年度)

『認知症者の要介護認定に係わる介護の手間判定指標の開発~介護の手間に関する評価尺度の開発~』

採択テーマ

『認知症者の要介護認定に係わる介護の手間判定指標の開発~介護の手間に関する評価尺度の開発~』

研究代表者

福祉マネジメント研究科 教授 今井幸充

採択年度

平成23年度

目的

本研究事業は、認知症者をはじめ認知機能障害を伴う高齢者の生活機能を適切に評価し、介護の手間を簡便に測定できる尺度を開発することである。それにより、介護認定調査時に常に議論とされている認知症者の介護の手間を容易に評価できることが期待できる。

平成 22 年度老人保健健康推進事業の助成を受けて、簡便で、誰が測定しても同じ評価ができる認知症ならびに認知機能障害を伴う高齢者の生活の状態を測定する尺度として、日常生活動作と行動・心理症状を評価する「認知機能障害に伴う日常生活動作評価(ADL -Cog )」、「認知機能障害に伴う行動・心理症状評価票(BPS― Cog )」を開発した。平成 22 年度事業では、 997 名の高齢者を対象に新しい評価票の信頼性と妥当性を検証した。結果では、 56 名の認知機能障害を伴う高齢者の評価者間一致率は、 ADL-Cog は 82.1 %、 BPS-Cog が 71.4 %、また FAST や Behave-AD との併存妥当性の検証でも相関係数が約 0.8 と高い相関が得られた。さらに、この評価尺度を用いた評価者の多くが 2 つの尺度の適切さや使いやすさを指摘した。この結果から ADL-Cog ならびに BPS-Cog の有用性が確認できた。

同研究事業では、 2 つの新しい評価票から認知機能障害を有する高齢者の生活困難度を計測することを試みた。現状ではこの生活困難度や介護の手間を測定する既存尺度がないために、同研究では「認知機能障害を伴う生活困難度評価票」を作成し、それを生活困難度の外的な基準と定め、 ADL-Cog と BPS-Cog のカテゴリーの 20 とおりの組み合わせと生活困難度の評価との関連を検証した。結果では、 2 つの評価票の組み合わせから評価する生活困難度の予測値と評価者が判断した生活困難度の実測値との一致率は必ずしも高い値ではなかった。むしろ実測値の方が軽い傾向を示した。すなわち、対象となった高齢者の生活困難な度合いは、 ADL や行動障害のみで評価することに多少の課題がある事が明らかになった。そこで Zarit の介護負担尺度を用いて生活困難度別の平均点を検討したところ、「困難」と「非常に困難」と答えた群の Zarit 評価得点の平均値に差がみられなかったが、生活困難の評価が重くなると Zarit の平均点は増加するが、困難度が重度化すると負担感も増加するとは必ずしも言い難い事が明らかになった。そこで、本研究事業の目的は、認知症者の生活実態を示す尺度として開発された ADL-CO gと BPS-Cog を用いて、対象者の生活の状態を評価し、その上で課題とされている認知症の日常生活困難度と介護の手間を評価する方法を開発する。

事業結果

1.認知機能障害に伴う日常生活評価測度の妥当性の検証

(1)新評価表に対する使いやすさ等の調査
  •  本研究事業に参加した81名の研究協力者、ならびに、平成21年度と22年度の研究協力者の調査結果から、新評価表であるADL-Cog、BPS-Cogの使いやすさ等の評価をまとめることとする。
  •  新評価表のカテゴリーへの評価では、ADL-Cog、BPS-Cogともも、中程度の症状の判定に迷うようすがうかがえ、ADL-Cogでは、「日常生活の基本的な行為の一部に介護が必要」、「日常生活のやや複雑な行為に援助が必要」、BPS-Cogでは、「行動・心理症状があり、常に目が離せない」が理解しにくいと回答する人が多かった。生活困難度では、「非常に困難」、「困難」が理解しにくいとされ、やや重度の方の判定に迷う様子がうかがえた。
  • 新評価表の使い勝手についての質問では、3年にわたり実施した評価者の調査からは同様の傾向となっており、<手間や時間>については現行尺度とはあまり変わらないものの、<適切さ>や<使いやすさ>については「新たな評価表」のほうが適切である、使いやすいとの評価が大半であり、高い評価を得ることができた。
(2)妥当性の検証
  • 3年間にわたり、新評価表と現行尺度、既存尺度との間での基準該当妥当性の分析を行ってきた。平成21年度には在宅の同居高齢者での分析を行い、平成22年度には対象を拡大して、同居高齢者だけではなく、独居の高齢者や施設入所の高齢者にも拡大して分析を行った。そして、平成23年度は施設に入所する重度の認知症高齢者を対象とした症例での分析を行った。
  • 各年度とも、ADL-CogとFAST評価表との相関係数、BPS-CogとBehave-AD評価表の相関係数は、高い相関係数を示し、現行尺度との相関係数よりも高い結果となった。
  • そこで、2年間のデータを合算し、評価者ごと、また居住環境別に、総当たり形式で相関分析を行うこととした。そしてその結果によれば、全体の相関係数、また医師と介護支援専門員・認定調査員の評価者別の相関係数、あるいは同居高齢者、独居高齢者、施設入所者の本人の居住環境別の相関係数は、ADL-CogとFASTでは0.6~0.8前後、BPS-CogとBehaveADでは.05~0.6を示す結果となり、どのような場合でも相関関係が強く、安定した結果となった。
(3)総合評価方法の検討
  • 平成22年度には、認知症の人の状態を把握するには、ADL-CogとBPS-Cogの2つの新しい評価表から、認知機能障害を有する高齢者の生活困難度評価表をつくり、その分析を行った。その結果、生活困難度は、ADL-CogとBPS-Cogの組合せが重度化するに伴い、点数が高くなることが確認された。しかしながら、その一致度は重度では高いものの、軽度や中度では余り高くない結果となった。
  • そこで今年度は、2年間のデータも合わせた調査結果から、再度生活困難度の実測値と理論値を分析した。その結果は昨年度と同様の結果であったが、いくつかのシミュレーションの結果からは、いくつかの軽度と中度のグレーゾーンがあり、その点に関するBPSDを中心とした評価の細分化が必要であることが示された。
  • 以上のことから、今後も引き続き分析を行い、新たな指標の設定や複数指標の重みづけによる加重得点化、ランク化を通して、名義的なパターン(目盛り)を作成し、認知症の人の状態をより正確に測ることができるシステムを作ることが重要である。
  • 予備調査では、グループディスカッションに10名の認定調査員が参加し、新評価表の使い勝手等について議論した。2つの評価表は、使いやすい尺度になっているとの指摘があり、判定に迷う表現を変更し、より使いやすいものに改良した。また、72名の対象者の評価では、ADL評価表の10項目間のクロンバックα係数は0.8以上を示しており、項目内の内的整合性は確保された。
  • 「日常生活上の行動・心理症状の程度評価表」を測定する尺度(BPSD評価表)は、分かりやすく、汎用性があるとの指摘の一方で、難しいとの意見があった。これらの意見を基に多少の改良を加えた。
  • 予備調査で実施した72ケースの既存尺度との関係についてはは、ADLとFAST、BPSDとBehave-ADの散布図を確認した。予備調査のため、統計上の相関を検証していないが、散布図の分布に問題はみられなかった。

2.介護の手間に関する評価測度の開発

(1)ワークショップの結果
  • ワークショップでは,家族介護者と専門職を対象に,介護者が考える認知症者の「介護の手間」とは何であるか,「介護の手間」の構成要素について明らかにした。
  1. 認知症に伴うBPSDへの対応等,BPSDに関連した介護が手間となることが明らかとなった。
  2. 認知機能・ADLのレベルが低い人への介護や見守り等が,手間であることが明らかとなった。
  3. 認知症者が家族と同居している場合と独居の場合との「介護の手間」の違いについて,居住形態による認知症者の状況・状態やそれに伴う介護(直接的または身体接触を伴う介護)の手間に違いがみられない可能性が示唆された。
  4. 介護者は,介護の「手間」と「負担感」に対して,まったく同じではないものの,似通ったイメージを持っており,明確な違いは認められないことが明らかとなった。

以上のことから,認知症者の「介護の手間」の構成要素として,認知症者の状態(BPSD・ADL・認知機能)が含まれることが明らかとなった。また,「手間」と「負担感」には,強い関連性が認められたことから,「介護の手間」の構成要素の中に,「負担感」も含める必要が示唆された。

(2)計量的調査の結果
  • 計量的調査では,ワークショップ等の結果を受け,介護の「手間」や「負担感」に大きく影響を与えると考えられる認知症に伴う行動・心理症状(BPSD)を中心とした「認知症者の症状・行動」に焦点を当てた自記式質問紙調査を,,家族介護者(認知症の人と家族の会会員および病院の外来患者の家族)と専門職(認知症ケア学会認定上級認知症ケア専門士および施設の介護職員)に実施した。
  • 認知症者の「介護の手間」とは,「認知症者の状態」と「介護者の負担感」で構成されるということであるという操作的概念を定義し,個々の「認知症に伴う症状・行動」の「種類」と「出現頻度」による介護者の負担感の違いからの検討を行った。
  • 症状の有無の結果に関しては,4つの大項目(「1.中核症状関連の症状・行動」「2.精神症状」「3.行動コントロール障害」「4.対人関係の障害」)ごとに見てみるとそれぞれ,家族介護者と専門職で症状・行動の有無に大きな差が認められた項目もあったが,7割程度の高い割合で見られる項目,低い割合見られる項目とも大まかには,相関している結果となった。また,全体的に専門職の方が,症状・行動があると回答した割合が高かったことも明らかとなった。
  • 4大項目の出現頻度と負担感の組み合わせの結果に関しては,「頻度が低く負担感も弱い(頻低負弱)」,「頻度が低く負担感は強い(頻低負強)」,「頻度が高く負担感は弱い(頻高負弱)」,「頻度が高く負担感も強い(頻高負強)」という4つの枠組みでのまとめから計量的調査の単純集計全体を通して明らかになったことを以下に示す。
  1. 「頻度が低く負担感も弱い(頻低負弱)」では,日中行動を起こさない,他者との関わりを拒否する,食べ物を隠すなど周囲への影響が少ないと考えられるもの,そして入浴方法がわからない,薬を飲んだことを忘れる口腔ケアの拒否など,症状がみられても介助や促しなどに,時間があまりかからないと考えられる行為等が多かった。
  2. 「頻度が低く負担感は強い(頻低負強)」では,他者への影響が大きい(大声,暴言・暴力)そして,症状があった場合に対処に難しさや手間が伴うと考えられる,(徘徊,性的行動,自殺を企てる)などが負担が大きい傾向があると考えられる。
  3. 「頻度が高く負担感は弱い(頻高負弱)」では,食事時間が長い,依存,幻覚など,特に介助を要しない項目が多かった。
  4. 「頻度が高く負担感も強い(頻高負強)」では,中核症状,対人関係障害は特に共通してみられるのは,「排せつ」関連の項目であった。これは通常は毎日,複数回みられる行為であり,症状があった場合に介助と片づけ等も必要となるからではないか思われる。

以上の結果を踏まえ,認知症者の「介護の手間」評価尺度を開発する上での尺度を構成する要素を精査する必要があることが明らかになった。

  • 本研究の限界は、認知症者の「介護の手間」に関する概念の曖昧さがあげられる。先行研究において,「介護の手間」という概念や定義が明確になっていないために,本研究では先行研究を踏まえながらも,独自に「介護の手間」とは何であるかを定義した。しかしながら,外的基準がないために,妥当性の検証が不十分であると言わざるを得ない。今後は,引き続き本研究で収集したデータの分析作業を進めるだけでなく,国内外の先行研究を改めて探索することを通して,認知症者の「介護の手間」の概念やその構成要素を明らかにする必要があると考える。
  • 第2に、調査対象者の代表性の問題があげられる。本研究では,ワークショップと計量的調査において,家族介護者として家族会に属する方々を,専門職として主に認知症ケア専門士の方々を調査の対象とした。しかしながら,認知症者を介護する家族介護者の多くは,家族会などの自助グループには属していないのが現状である。また,認知症ケアの専門職においても,ごく一部の限られた専門職を対象としている。このようなことから,本研究の対象者が必ずしも認知症介護者を代表しているとは言い難いと考えられる。しかしながら,調査時点において,現に認知症介護に取り組まれている方々であることは間違いなく,本研究の結果には一定の信頼性があるものと考えられる。

3.介護の手間に関する評価測度の開発,今後の課題

  • 平成23年度の目的は、ADL-Cog とBPS-Cogの二次元的に評価された高齢者の状態を組み合わせた結果、総じて何を評価しているのかを明確にすることであった。これまで要介護認定で用いられてきた「認知症高齢者の日常生活自立度」の信頼性と妥当性が立証されていないことから、これに変わる新たな尺度を開発することが求められ、このADL-Cog とBPS-Cogの2つの新測度を開発し、これらが認知機能障害を伴う高齢者の介護の手間や生活自立度を評価しているか否かを明らかにする必要がある。
  • そこでの課題が、「介護の手間」あるいは「生活自立度」と称すものをどのように定義し、その構成要因を明らかにすることであった。これらの言葉の意味する背景には、認知症者が生活を営む上での困難な状況を反映するものと考えた。そこで、本研究では、ADLの障害や行動心理症状の評価により高齢者の生活困難度が測定できる、との仮説のもと検証を行うことにした。ここでの生活困難度とは、介護者の観察による認知症者の生活が「ほとんど困難なし」「やや困難」「困難」「非常に困難」の4段階の感覚尺度とした。そして生活困難度を介護者の主観的評価とし、その構造を2つの新測度を用いて説明できないか、検討した。
  • 本年度の研究結果では、全体としてADLの低下とBPSDの出現によって生活困難度は上昇し、またADLが低下してもBPS-Cogが0であれば生活困難度は上昇しないが、ADLが軽度でもBPS-Cogの程度が上昇すると生活困難度も上昇することが明らかになった。この結果から、認知症の生活困難は、BPSDの重症度に影響されることが明らかになった。
  • そこで、本研究の目的である要介護度判定に効果的な評価測度を開発するには、要介護度の性格が日常の要介護者の「介護の手間」を意味しているとから、この「介護困難度」が「介護の手間」とどのよう関係にあるのか明らかにする必要がある。しかし、「介護の手間」とは何か、その定義や構造が明らかでないことから、「介護の手間」の構成要因をまず明らかにする必要がある。
  • 本研究事業では、平成23年度から、この「介護の手間」の構成要因を明らかにする研究に着手した。その結果については、別冊報告書を参照してほしい。そこでは、認知症者の「介護の手間」の構成要因は、ADL、BPSD、介護環境であることが明らかにされたが、今後は「介護の手間」を測定する測度の開発が求められる。
  • 今後の課題として、認知症など認知機能障害を伴う高齢者の生活状態全般を評価する測度の開発である、本研究で開発したADL-Cog、BPS-Cogを用いて、認知機能障害を伴った要介護者の「介護の手間」あるいは「日常生活自立度」を評価する簡便な測度の開発が望まれる。

報告書

『介護職員の初期キャリアの形成に関する調査研究事業』

採択テーマ

『介護職員の初期キャリアの形成に関する調査研究事業』

研究代表者

福祉マネジメント研究科 准教授 藤井賢一郎

採択年度

平成23年度

目的

介護職員の初期キャリアの形成や早期離職の現状と課題を整理するとともに、長期キャリア形成者からみた、初期キャリアの重要性やあり方を明らかにする。

事業結果

1.アンケート調査

(1)介護職場の早期離職の要因に関する研究1:郵送法による質問紙調査
  • 「個人的社会化戦術」の傾向が高く、「社会的社会化戦術」が低く、「開設経過年数」が短く、「利用者平均要介護度」が低い職場において、「早期離職」が促されることが明らかになった(特に「個人的社会化戦術」得点、「社会的社会化戦術」得点の影響が大きい結果であった)。また、「内容的社会化戦術」得点や「介護職場のコンフリクト」得点は有意な影響を与えていないことが明らかになった。
  • すなわち、社会化戦術の点からは、早期離職は、「仕事の上で必要な知識の多くは、自分自身で試行錯誤して習得する必要がある」などのように個人の行動や裁量の中で働く場合に高まり、「組織に適応できるように、先輩は手助けをしてくれる」などのように職場内の支援がある場合には、離職は軽減される可能性が示唆された。
  • 一方で、人事制度におけるキャリア・パス等の内容が含まれる「内容的社会化戦術」や、介護職員の離職の要因の一つと考えられる「職場内のコンフリクト」が、職員の早期離職には有意な影響を与えていなかった。特に、制度としてのキャリアパスだけでは、早期離職を抑制することに大きな効果を持たないことが示唆されている点は興味深い。
  • (2)の結果と一部において一致しない結果もあり(回答者の地位が異なることによるものと考えられる)、今後、調査研究を深めるとともに、早期離職を抑制するための具体的方策について検討していきたい。
(2)介護職場の早期離職の要因に関する研究2:ウエブ調査による他業種との相違の検討
  • 他サービス業との比較の上では、離職・採用の状況や組織社会科戦術、交換関係等において差がみられるにもかかわらず、早期離職要因構造の点では、他のサービス業と基本的に大きな違いはなかった。すなわち、「新卒一斉採用傾向」「個人的社会化戦術」「同僚に迷惑を与える職務特性」「社会関連資本が充実していないこと」が、「早期離職」を促すことが明らかになった。
  • 一方、介護職場に特徴的なことは、「感情コンフリクトの存在」「文脈的社会化戦術の弱さ」が、早期離職になっている点であった。
  • 全般に、「個人的社会化戦術」を避け、「社会関連資本」の充実を進めることの重要性が示唆された。
  • 今後、(1)と一致しない点(「コンフリクト」の影響)を確認する調査研究を深めるとともに、「新卒一斉採用」が「早期離職」を促す背景について、更に調査を行い、その対策を検討する必要がある。また、他のサービス産業との一致点が多くみられたことから、他のサービス産業界における早期離職の取組等の比較から、介護業界における効果的な取組を検討していきたい。

2.介護・福祉職場における離職に関する事例研究

  • 介護・福祉職場で働くリーダー的職員が疲弊・離職に至った事例を用いて、経営者、介護・福祉職員、教員・研究者にて事例検討を行い、個人側の課題、組織の課題、組織風土の課題等について議論が行われた。
  • 今後、さらに、介護職員がキャリアを閉ざした背景について多角的な視点で検討し、今後の組織マネジメントのあり方だけでなく、組織の中での福祉・介護職員の働き方を考えていきたい。

3.ヒアリング調査(キャリアケースブックの作成)

  • 介護職場の「成長経験」の特徴は、初期の段階(1~3年目)に「成長経験」がある程度集中していること、初期段階で『仕事を膨らませる』という経験を持つこと、「成長経験」「外部活動・接触」「研修参加」「利用者家族からの学び」が多く、「利用者家族からの学び」は初期の段階に集中する傾向が分かった。
  • その一方で、「成長の経験」にあたって、上司からの成長支援(内省支援、情緒支援、業務支援)を受けるケースが少ない傾向も明らかになった。
  • 調査対象者の初期キャリアの時代と比較して、高齢者の重度化を背景として、クライアントから学ぶ体験は、過去より圧倒的に少なくなっていることが想定され、それをおぎなうのが上司からの支援(特に内省支援)の必要性や、若いうちに「仕事を膨らませる」体験を促すような仕組み(多事業所間の研修等)の必要性が示唆された。
  • 今後は、更に調査対象者数を増やし、「成長経験」という観点から初期キャリアの形成の分析を進めるとともに、それを促す職場のあり方について検討を深めたい。

報告書

『医療依存度の高い在宅高齢者に対する、質の高いサービス提供のあり方に関する調査研究事業』

採択テーマ

『医療依存度の高い在宅高齢者に対する、質の高いサービス提供のあり方に関する調査研究事業』

研究代表者

社会福祉学部 准教授 佐々木由惠

採択年度

平成23年度

目的

vv 終末期を在宅で過ごす癌患者をはじめとし、医療依存度の高い在宅要介護者が年々増加傾向にある。それに伴い、訪問介護員も、医療依存度の高い利用者に対応する機会が増加し、知識や技術に対する不安も多く聞かれるようになってきた。

本研究では、訪問介護員が提供しているサービスの実態を明らかにし、医療的ケアが実施されている場合には、どのような内容が多く実施されていて、実施時にどのような不安を抱えているのかを分析する。また、それらを実施していく上で必要な知識や技術は、どのような形で学んでいるのか、法的根拠をどのように理解しているのか、実施時の医療連携はどのような形で行われているのかも明らかにする。

本研究における調査は、都市部に近い特徴をもつ地域から過疎に近い地域まで多様な地域特性をもつ千葉県を対象地域とし、1,000人を超える会員を持つ千葉県ホームヘルパー協議会と、千葉市内の訪問介護員を対象にした研修支援を実施している千葉市社会福祉協議会・研修センターの協力を得て実施する予定である。

介護サービス内容の傾向分析と不安要因を探ることや法的根拠の理解を知ることは、どのような知識や技術が訪問介護員に求められているかを示す指標となる。

また、本研究では、傾向分析された介護サービス内容と不安因子の結果から、訪問介護員に必要とされる知識や技術を学ぶことができるような教育のあり方についても検討を加え、サービス提供責任者が、それぞれの事業所において、訪問介護員が安心してサービスが提供できるような仕組みづくりを構築することを目指している。

そこで、本研究事業では以下のことを目的として行う。

  1. 医療的依存度の高い利用者に対して行なわれている介護サービス提供の実態と不安要因を明らかにする。
  2. 介護サービスの実態を精査し、そのサービスはどのような根拠に基づいて提供されているのかを明らかにする。
  3. 対象者に研修を実施し、その効果を検討しニーズに即した知識や技術を学べるような教育のあり方を提言する。

事業結果

介護保険法の改正を直前に控えた時期に、医療ケアの実態と介護職の意識を、特に不安要因に視点を当て調査した。医療ケア(特にたんの吸引)の実施に対する訪問介護員の受け止め方は、やりたくない、利用者が必要とするならばやらざるを得ないという回答であり、利用者の立場からの思考が多かった。法的に医療ケアの実施が認められてもリスクをどのように軽減するのかという点で不安を感じている者もいた。訪問介護員の意識として、昨年の施設調査と同様に経験年数がある介護職ほど不安を抱えている実態が明らかになった。また、実践しているものについて、手技はできてもその安全性、根拠については自信がないということが明らかになった。また、医療ケアを行うための50時間の講習についても人員の関係で受講することが困難であるという声も聞かれた。介護職による医療ケアの実施は現場サイドでは十分に準備された中での改正とは言い難い。

報告書