個々の困り感に明かりを灯す Chapter 01
こどもの特性を理解し
保護者の不安に寄り添う
具体的なお仕事内容についてお聞かせください。
川崎市が独自に展開する子ども発達・相談センター(きっずサポート)で、主に幼児期の発達相談業務に携わっています。お子さん一人ひとりの特性も違えば、家庭ごとに抱える困りごとも異なります。家のなかでのかんしゃくや落ち着きのなさに悩んでいるという声もあれば、家では落ち着いて過ごせているものの、保育園や幼稚園などの集団生活に入ると落ち着かなくなってしまうという相談もあります。状況によって異なるお子さんの様子を丁寧に見極めるため、個別面談だけで判断せず、多角的な視点でアセスメントを行うよう心がけています。保護者同意の上で園の先生に連絡をとり、日頃の様子を尋ねたり、実際に園を訪問して集団のなかでの姿を観察することもあります。
川崎市では、もともと地域療育センターが一手にこどもの発達相談を引き受けていましたが、相談ニーズの増加にともない、相談までの待機期間が長くなるという課題が生じました。そこで、より間口を広げて迅速に対応するため、誰もが気軽に相談できる機関として開設されたのが、「きっずサポート」でした。2021年から市内7区の各区に順次開設し、現在は7区すべてに設けられています。ここでは、18歳未満のお子さんとその保護者の方を対象にお子さんの発達に関する相談を受け、お子さんの様子に合わせて助言を行うほか、速やかに必要適所につなぐ役割を担っています。きっずサポート内には運営を民間に委託している児童発達支援事業所もあります。官民が緊密に情報を共有し、一人のお子さんに対して一体的な支援を行えることが、市の相談体制の大きな強みです。
仕事にやりがいを感じるのはどのような時ですか。
相談に来られた保護者の方が、張り詰めた気持ちを緩め、「相談して本当によかった」と言ってくださる時です。
ある時、お子さんの発達について人一倍心配している親御さんが相談にいらっしゃいました。それまでは周囲から「大丈夫だよ」「心配しすぎじゃない?」と言われつつ、お子さんの発達について心配されてきたようでした。
私たちセンターの職員でお子さんの様子に沿って対応を協議し、医療的な相談も可能なより専門の相談機関をご紹介すると、親御さんが「ここに来てよかったです」と言ってくださいました。その安堵した表情は今でも覚えています。保護者の方がお子さんの成長発達に向き合うことのお手伝いができることに、やりがいを感じます。
実践と理論から未来を灯す
Chapter 02
豊富な実習と学びの原点が 現在の多角的なアセスメントの礎に
豊富な実習と学びの原点が
現在の多角的なアセスメントの
礎に
日本社会事業大学に進学したきっかけと、当時の大学生活について教えてください。
もともとこどもが好きで、こどもたちと触れ合うことに興味があり、好きな分野を仕事にしたいと漠然と考えていました。進路を調べるなかで、保育士資格だけでなく、社会福祉士の受験資格も卒業時に取得できる大学であることを知り、将来の選択肢や視野が広がるのではないかと魅力を感じて日本社会事業大学への進学を決めました。
大学時代はサークル活動のほか、「トワイライトステイ(夜間養護等事業)」を行う施設でのアルバイトを経験しました。夕方に学校や学童へこどもたちを迎えに行き、施設で一緒に遊び、夕食を作って夜まで共に過ごす預かりの補助業務です。
ひとり親のご家庭など、夜遅くまで働きながら生活を支えている保護者のリアルな現状を肌で感じるとともに、親が迎えに来た瞬間にこどもたちが嬉しそうに駆け寄って抱きつく姿を何度も目にしました。さまざまな背景をもつ家庭があり、それぞれの場所で一生懸命に生きている。学生時代に見たその光景やこどもたちの姿は今でも思い出され、社会福祉の仕事の選択にもつながる経験であったと思います。
授業や実習での学びは、現在の仕事にどう活きていますか。
大学での学びは、現在の業務のさまざまな場面で活きています。在学中は保育園や児童養護施設、児童発達支援施設など、数多くの現場へ実習に行きました。
例えば保育園の実習では、各年齢のクラスでこどもたちと過ごし、一般的な発達段階や集団での動きの基準を体系的に学びました。この経験があるからこそ、現在の発達相談の現場において、園の先生からお話を伺った時なども、集団生活の様子を具体的にイメージできます。保育園での実習は現在の業務にも活かされる貴重な経験でした。さらに、児童発達支援施設の実習で学んだ、こどもの特徴に合わせたアプローチを考えることは、今まさに業務で行っていることと重なるものであり、大切な学びであったと感じています。
また、講義で学んだ「公的扶助論」や「援助技術論」の知識も、現場に出てからより深く納得できました。最初に入職した生活保護業務の現場では、大学の講義に出た「他法優先の原則」などを市民に説明することになり、あの時学んだ理論はこういうことだったんだと、知識と実践が重なり合いました。
さらに、当時の先生が何度も強調していた「エンパワーメント」(本人のもつ力を引き出し、高める関わり)という言葉も、相談業務の中で思い出されます。相談者のできないことに目を向けるのではなく、家庭や本人が今もっている強みやその活かし方を考える。こうした視点の大切さを、大学の授業で教わりました。
誠実な関わりで信頼を灯す Chapter 03
コミュニケーションと
幅広い経験が活きる
家庭全体への支援
業務において、またチームで働く上で大切にしていることは何ですか。
日々の業務や他職種との連携において何より大切にしているのは、目の前のすべての人に対して、人として誠実に向き合う姿勢です。
相談業務では、相談者の声のトーンや雰囲気、表情といった言葉以外の情報を注意深く観察し、相手のもつ温度感に自分を合わせていくことを心がけています。例えば、複雑な思いを抱えて静かに話し始めようとする人には話しやすさが損なわれないよう、同様に落ち着いたトーンで丁寧に聞き取りを行っています。相手のトーンに寄り添うことで、少しずつ緊張をほぐし、伝えたかった思いを話してもらえるような関わり方を大切にしています。
また、職場の環境づくりとしても、職員同士が何気ないことでも相談し合える関係性を保つよう意識しています。発達相談の現場は、一人ひとりの背景にある課題と向き合わねばならず、支援者自身の心が揺さぶられることも少なくありません。だからこそ、支え合える仲間がいることが、結果として市民の方々により良いサービスを提供することにつながると考えています。
新規立ち上げメンバーとして「きっずサポート あさお」の開設に携わった際は、保健師、心理職、社会福祉職、学校連携推進員など、異なる専門性をもつメンバーで議論を重ね、円滑な支援の基盤を整えました。多職種連携の原動力も、互いを尊重し合う誠実なコミュニケーションにあると実感しています。
今後の展望を教えてください。
まずは現在の役割として、日々寄せられる発達相談に誠実に向き合い、適切な支援へとスピーディーにつなぐ体制を継続し、市による新たな支援体制の手応えを確かめていくことが目下の目標です。
その先にあるキャリアとしては、子ども家庭の分野にこだわり過ぎず、社会福祉職として幅広い分野を経験していきたいと考えています。最初に配属された生活保護業務は、大学で主に学んできた分野とは異なる業務でしたが、そこで学んださまざまな制度やケースワークの技術は、その後の児童虐待対応や現在の発達相談の現場でも活きています。
こどもの福祉の課題は、こどもへの支援だけでは解決できません。例えば子ども家庭の分野であっても、親の病気や生活困窮など、世帯全体で課題を抱えている場合があります。そうした時に、高齢者や障害者分野等の知識をもっていれば、より広い視野で家庭全体を支援できるようになります。さまざまな分野を経験しながらキャリアを積み、どんな現場にいても目の前の人に最善の支援を行える福祉職であり続けたいです。
Message
保育士と社会福祉士の両資格取得を視野に入れて学ぶことは、将来の活躍の場や可能性を広げる大きな強みになります。私自身、大学で保育士の現場を経験するうちに、より仕事の幅を広げられる公務員に興味をもつようになりました。実際に福祉の現場で実感するのは、複数の視点を持つ必要性です。保育士として得たこどもを見る視点と、社会福祉士として学んだ社会制度やソーシャルワークの視点、双方が合わさって初めて見えてくるアプローチがあります。実習や試験対策など大変なことも多いですが、日本社会事業大学には、同じ志をもつ仲間たちと共に切磋琢磨し合える環境が整っています。ここでの学びや経験は、皆さんの将来だけでなく、支援を必要とする多くの人々の豊かな生活へとつながっていくと思います。