17複雑な生活課題や孤立の解消へ。
実証的研究が示す新時代のソーシャルワークとは?

解に挑む研究者

小原 眞知子教授

社会福祉学部 ソーシャルワーク学科

Profile
日本女子大学大学院人間社会学研究科博士後期課程修了(社会福祉学博士)。日本医科大学第二病院リハビリテーション部のソーシャルワーカー、久留米大学文学部社会福祉学科准教授、東海大学健康科学部社会福祉学科教授等を経て現職。国際ソーシャルワーカー連盟アジア太平洋地域会長。
【専門分野】
医療ソーシャルワーク、医療福祉領域

病気や障害、貧困など、複雑に絡み合う社会課題に対し、ソーシャルワーカーはどのように働きかけるべきでしょうか。また、多文化共生が進む現代社会では、社会的マイノリティが孤立せず、一人ひとりの尊厳が守られる地域づくりも重要なテーマとなっています。現場に根差した実証的研究を進め、より包摂的な社会の構築を目指す小原教授の取り組みをご紹介します。

#医療ソーシャルワーク#国際ソーシャルワーク#ソーシャルワークの専門性

SDGsアクション

すべての人に健康と福祉を 人や国の不平等をなくそう

医療では解決できない
課題に挑む。
現場に根差した実証的研究

研究のきっかけは、大学病院に医療ソーシャルワーカーとして勤務していた頃にさかのぼります。実践経験を通して、人々が病気や障害、そのほかの生活課題をかかえた際に、医療だけでは解決できない社会的問題が数多く存在することを実感しました。とりわけ、制度の狭間で支援につながりにくい人々へのかかわりを通じて、実践を理論化し、よりよい支援体制や社会システムの構築に貢献したいと考え、研究者を志しました。

現在は、医療ソーシャルワークを基盤に、災害ソーシャルワークや国際ソーシャルワーク、多職種連携、ソーシャルワーカー支援などを研究テーマとして取り組んでいます。現場実践と研究を行き来しながら、社会的に弱い立場に置かれた人々への支援のあり方を探究しています。

研究者として大切にしているのは、「現場に根ざした実証的研究」を行うことです。ソーシャルワークの研究は理論だけで完結するものではありません。実際に支援を必要としている人々の声や生活といったRealitiesに耳を傾けることが重要だと考えています。そのため、実践現場の経験や当事者の視点を大切にし、研究成果を教育や政策、各種支援の改善へとつなげるよう意識しています。

また、多様な価値観や文化的背景を尊重し、一人ひとりの尊厳を守る視点を常にもち続けることも重要だと言えます。研究を通して、社会のなかで声を上げにくい立場にある人々と共に、より包摂的な社会の実現に貢献したいと考えています。

誰もが孤立せず尊厳と
自分らしさが守られる社会へ

これまでの研究では、「社会的に困難をかかえる人々が、地域で安心して暮らし続けられる社会をどのように実現するか」というテーマを中心に据えてきました。なかでも次の2つを特に重要な研究分野に掲げています。

1つ目は医療ソーシャルワークに関するものです。病気や障害をかかえた患者さんやご家族が直面する生活課題(経済的困窮、介護負担、退院後の生活不安、家族関係の問題、社会的孤立など)の改善・解決に焦点を当てています。医療機関においてソーシャルワーカーがどのように患者さんやご家族を支え、多職種と連携しながら支援を行うべきかを研究してきました。近年では、患者さんの意思決定支援、また、医師や看護師、リハビリ専門職などとの「多職種連携」の研究に力を入れています。異なる専門職が互いの専門性を理解しながら協働することで、患者さん一人ひとりに合わせた包括的な支援が可能となります。この研究は、高齢化が進む日本社会において、安心して地域で暮らし続けられる医療・福祉体制の構築に貢献できると考えます。

もう1つは、国際ソーシャルワークおよび多文化共生に関する研究です。グローバル化が進む現代社会では、国籍や文化、言語、宗教などの違いを超えて、人々が共に暮らしていくことが求められています。しかし一方で、外国人住民や移住者、社会的少数者が地域社会で孤立したり、必要な支援につながりにくかったりする課題も存在しています。私は、アジア太平洋地域を中心とした国際的な研究交流や教育活動を通じて、各国のソーシャルワーク実践や福祉制度を比較研究してきました。また、多文化共生社会において、ソーシャルワーカーがどのような役割を果たすべきかについても研究を進めています。異なる背景をもつ人々が互いを理解し、尊重しながら支え合う地域づくりを推進することで、誰もが安心して暮らせる社会の実現につながると考えます。

これらの研究に共通しているのは、「一人ひとりの尊厳を大切にする」という視点です。根底には、研究成果を教育や実践、政策提言につなげながら、人々が孤立せず、自分らしく暮らせる社会づくりに貢献したいという思いがあります。

現場のリアルから紡ぐ
これからの組織の支援体制、
多職種連携と地域連携

研究のやりがいは、現場で感じた課題を研究として整理し、その成果を実践や教育に生かせることにあります。特に、医療ソーシャルワーカーとして患者さんやご家族とかかわるなかで感じた「制度だけでは支えきれない苦しさ」を研究テーマとして取り組み、多職種連携や支援体制に貢献できたときには、大きな喜びを感じました。

一方で、研究と実践、教育、国際活動を並行するなかでは、時間的・精神的な負担も大きく、研究が思うように進まない時期もありました。しかし、国内外の研究者や実践家との交流を通して新たな視点や励ましを得ることで乗り越えてきました。また、多くの方々とのつながりが研究を支える大きな力になっていると感じます。

今後は、医療機関内の多職種連携だけではなく、組織内から地域へとつながる連携のあり方、そして、ソーシャルワーカー自身を支える組織の支援体制に関する研究に取り組みたいと考えています。少子高齢化や社会的孤立が進むなかで、複雑化する生活課題に対応するためには、多様な専門職が協働できる仕組みが必要です。また、支援者自身のメンタルヘルスや組織的サポートの充実は、質の高い支援を継続する上で重要であり、実践現場に還元できる研究を進めていきたいという思いもあります。

研究の先に見つめるのは、病気や障害、貧困、孤立など、どのような困難を抱えていても、一人ひとりが尊厳をもって安心して暮らせる社会です。そのためには医療・福祉・地域が連携し、人々が必要な支援につながる仕組みづくりが重要だと感じます。多様な背景をもつ人々が互いを尊重し支え合える共生社会の実現に、研究と教育を通して貢献してまいります。

福祉を学ぶ人へ

社会福祉は、「人を支える仕事」であると同時に、「社会のあり方」を問い続ける学問でもあります。支援を必要とする人々や地域社会の課題にふれるなかで、時には悩みや難しさを感じることもありますが、その分、人の人生や社会に深くかかわることができる大きな意義があります。ぜひ、多様な価値観や背景をもつ人々に関心を持ち、現場での出会いや学びを大切にしてください。福祉を学ぶことは、他者への理解を深め、人と共に生きる社会について考える力を育むことにつながると思います。