18開発途上国が抱える課題から
世界共通のテーマまで応用できる研究アプローチとは?

解に挑む研究者

デバコタ ジバナト講師

社会福祉学部 共生社会デザイン学科

Profile
2005年にネパールのトリブバン大学にて経済学修士を取得。その後5年間、経済学教育に携わり、2011年に名古屋大学大学院国際開発研究科博士課程入学。2015年博士取得。英語講師を経て2023年に日本社会事業大学社会福祉学部福祉計画学科着任。現在はアカデミック・ライティングおよびSDGsに関するディスカッションを取り入れた英語科目を担当。
【専門分野】
経済発展、貧困、不平等、移民、男女平等

貧困やジェンダー平等、移民問題など複雑な課題が数多く存在する一方で、高度情報化が進み、さまざまなデータへ容易にアクセスできる現代社会。そのような時代において、人々のニーズに応える真に価値ある研究とはどのようなものでしょうか。自身の出身地域が抱える課題から世界共通のテーマまで、幅広くアプローチするデバコタ・ジバナト講師の取り組みをご紹介します。

#貧困#不平等#移民#男女平等

SDGsアクション

貧困をなくそう 質の高い教育をみんなに ジェンダー平等を実現しよう 働きがいも経済成長も 平和と公正をすべての人に

マクロな経済データから
人々のリアルな営みを読み解く

私が研究者を目指したきっかけ、そして現在の研究分野を選んだ背景には、生まれ育ったネパールをはじめとする開発途上国の社会問題がありました。

たとえば、多くの途上国では国内で働ける場所が非常に少ないため、若者たちが海外や都市部へと移り住み、離れて暮らす家族に送金するケースがよく見られます。こうした仕送りは、残された家族の生活を豊かにするだけでなく、国全体の経済成長を支える重要な資源にもなっています。私は移民と仕送りが貧困率を引き下げるために果たす役割について関心を抱くようになりました。これが、博士課程でネパールの仕送りと貧困率低下について本格的な研究を始めた理由です。

これまでに取り組んだプロジェクトの一つに、ネパールにおける仕送りが貧困率の低下にどのような影響を与えているのかを調べた研究があります。この研究では、2010年・2011年にネパールで行われた大規模な生活水準調査のデータを用い、統計的な計算方法(回帰分析)によって細かく分析しました。

その結果、教育水準が高くある程度収入の多い世帯ほど、仕送りを受け取っている可能性が高いという傾向が明らかになりました。さらに、貧困率をどの程度下げられているかについても興味深い結果が浮かび上がってきたのです。

もし「ネパール国民に仕送りが一切ない」と仮定した場合、国内の貧困率は26.10%に達するという結果が得られました。しかし、国内からの仕送りがある場合に貧困率は24.97%へと下がり、海外から仕送りがある場合には貧困率を22.13%まで大きく引き下げることがわかったのです。最終的に、国内と海外双方からの仕送りの効果を合わせると、全体の貧困率は21.01%まで低下します。

移住して家族に送金する行為が、一家庭の問題にとどまらず、国全体の貧困を減らし、人々の暮らしの向上にどれほど重要な役割を果たしているのかを、客観的に証明できたのです。

ジェンダー不平等の構造に挑む。
教育の力で暴力や
差別を排除するアプローチ

これまでの研究者人生でもう一つ真摯に向き合ってきた課題が、社会に根深く残る「ジェンダー不平等」です。ネパールやインドでは、女性の教育や就業の機会が限定されているため、若くして婚姻せざるを得ない女性たちも少なくありません。さらに、結婚後も多くの女性は家事や育児といった無償労働を担い、身体的・精神的な負担を抱えています。こうした背景から、教育や地域プログラムが女性の自立とエンパワーメントにどのように役立つのかを研究し、解決の糸口を見出したいと考えるようになりました。

具体的には、ネパールおよび世界各国におけるジェンダー関連の問題に焦点を当てたプロジェクトに取り組みました。現代において、家庭内暴力やセクシュアル・ハラスメント、児童婚、あるいは職場における女性や少女への差別など、ジェンダーに起因する諸問題は、依然として深刻な社会課題です。特に、社会的な構造のなかで孤立しやすい少数民族や低カーストの女性たちは、より大きな困難に出合うことが少なくありません。

そこで、本研究では、ジェンダー関連の問題や格差を少しでも減らすための「学校を基盤とした介入方法」を提案しました。なかでも重要なアプローチが「体育の必修化」です。

女子生徒が体育の授業を通じて日常的に体を動かし、自らの身体能力を高めることは、単なる健康増進にとどまりません。体力や自己肯定感、自信、最終的には「自分の身を守る力」を精神的にも肉体的にも高めることへと直結するのです。この取り組みが普及し、少女たちのエンパワーメントが進むことで、ジェンダーに基づく暴力や差別を減らせると結論づけました。教育という分野はネパールだけでなく、世界全体におけるジェンダー関連の根深い問題を解決していくために、重要な役割を果たすことができると考えています。

誰も排除されない
包摂的な共生社会の
デザインに向けて

研究活動において大切にしている考え方は、大きく三つあります。

第一に、研究者は重要な社会問題を見いだす力をもつべきだということ。対象には、私たちが暮らす地域から国全体、さらには国際社会に至るまで、あらゆるスケールの問題が含まれます。

第二に、研究倫理を遵守することです。研究は、常に信頼できる証拠や適切なアプローチ方法、何よりも客観的な分析に基づいて厳格に行われなければなりません。

第三に、問題の原因を明らかにするだけで終わらせず、その先にある具体的な解決策を提示し、社会に対してリーダーシップを示すという姿勢です。たとえば、ある特定の地域でジェンダーに基づく暴力が深刻な問題になっているとわかれば、研究者はより安全でより良い社会をつくるための具体的な対策や提案をしていくべきだと考えます。

こうしたプロセスから得られる喜びは、社会問題をより深く理解し、その解決に向けた道筋を探究できる点にあります。たとえば、ネパールにおける仕送りと貧困率低下の研究に携わった際には、経済データが人々の実生活と極めて深く結びついていることを実感しました。

これまでの研究で得た知見を踏まえ、今後取り組みたいと考えているのが「日本における移民の社会的包摂と排除に対する認識」についての調査研究です。

日本では、人口減少と深刻な労働力不足を背景に外国人住民が急増しています。これまでの研究では、外国人労働者の受け入れに対する日本人の意識について検討されてきました。しかし、外国人住民自身が日本社会をどのように認識しているのか、十分な研究が蓄積されていません。今後の研究では、この研究上の空白を明らかにしていきたいです。こうした取り組みを通じ、より包摂的な地域社会の形成に貢献したいと思います。

ほかにも、研究を通じて実現したいことはたくさんあります。ネパールをはじめとする途上国において、仕送りを活用した起業や投資、雇用創出に関する政策的示唆を提供し、貧困率低下に貢献すること。次に、教育や雇用、リーダーシップ、地域開発における女性の平等な参加を促進すること。最後に、国籍やジェンダー、経済的地位、言語能力、障害の有無、あるいは文化的背景といった、ありとあらゆる属性や違いによって「誰もが排除されることのない、包摂的な社会」を構築すること。よりよい未来に向け、今後も研究に邁進していきます。

福祉を学ぶ人へ

現代社会を見渡すと、社会的・経済的な問題はあらゆる場所に存在しています。同時に、今や多くのデータがインターネットで入手できる時代になりました。しかし、そのなかから一体どの問題やデータが価値ある研究につながるのか、容易には判断できません。研究を進める上では、資金不足に陥ったり、希望する学術誌への掲載が難航したりすることが珍しくなく、時間の制約があるなかで成果を出さなければならないという課題もあります。こうした壁を乗り越えるには、物事を多角的にとらえる批判的思考や社会を注意深く観察する視点、そして短時間でも継続的に論文を執筆する姿勢が求められます。