14住民主体の地域づくりの拠点・
コミュニティカフェがひらく可能性とは?

解に挑む研究者
倉持 香苗准教授
社会福祉学部 福祉計画学科
- Profile
- 日本社会事業大学大学院社会福祉学研究科博士前期課程修了、日本福祉大学大学院福祉社会開発研究科博士課程(社会福祉学専攻) 修了。 博士(社会福祉学) 。インドで地域開発に関わるNGOのインターンを経験し、社会福祉協議会勤務等を経て2015年に日本社会事業大学に着任。2020年より現職。
【専門分野】
地域福祉
核家族化や高齢化、人口減少が進む現代社会では、人と人とのつながりが希薄になりがちです。そうしたなかで、誰もが気軽に立ち寄り、自由に過ごせる地域拠点の重要性が高まっています。社会福祉と地域開発をキーワードに、地域拠点の一つとして「コミュニティカフェ」の可能性を追究する倉持香苗准教授の取り組みをご紹介します。
#地域共生社会#コミュニティカフェ(多世代型地域拠点)#コミュニティファンド
SDGsアクション
インドの農村でふれた
「住民主体」の原点
現在の研究の根底にあるのは、大学時代にインドの農村で目にした「住民主体の地域開発(コミュニティ・デベロップメント)」の光景です。国際福祉のゼミに所属していた私は、フィールドワークの一環でインドを訪れ、自ら地域をよりよくしようとする村人たちの力強い営みに感銘を受けました。この経験が忘れられず、翌年もインドにわたり、卒業後は現地のNGOで1年間研修生として学びを深めました。
当時は、海外の現場で「住民主体」の重要性を肌で感じつつも、それを日本の地域社会でどのように実現すればよいのか、アプローチの方法が思いつきませんでした。着想を得るきっかけとなったのが、大学時代に受講した経済学部の授業です。地域におけるキーパーソンの見つけ方など、非常に具体的な手法が論じられていたことを覚えています。「社会福祉」と「地域開発」の交差点にこそ、自分が追い求めるべき答えがあるのではないか。そう考えての選択でした。
帰国後は日本社会事業大学の大学院修士課程を経て、社会福祉協議会に就職しました。その後、恩師の紹介で専門学校へ転職。同時期、日本福祉大学に「社会福祉」と「地域開発」を融合させた「福祉社会開発研究科」が創設されたと知り、同博士課程に進学して本格的に研究活動をスタートさせました。
「カフェ」から広がる緩やかなつながりと持続性
これまで取り組んできた研究の柱の一つが「コミュニティカフェ」です。当時は「公園デビュー」や「孤独な子育て(孤育て)」といった言葉が注目されており、誰もがふらっと立ち寄り、自然な会話が生まれる場所の必要性が強く求められていました。私自身、「誰かと共に飲食をする」ことで得られる相互理解やリラックスした本音の交流の大切さを実感していた点も、研究を始めたきっかけです。
また、背景には長年かかわり続けてきたインドでの経験もあります。現地では、貧困や差別に苦しむ人々に対して、ソーシャルワーカーが地域住民同士による話し合いの場を設けて行動することを支援していました。住環境もままならない地域でしたが、年月を経て生活環境が改善され、やがて保健衛生のみならず経済活動も大きく発展していきました。その様子に、人々のエンパワメントを強く感じたものです。誰かと飲食を共にすることを通じて、知り合い、相互理解を深め、困った時には支え合える場所。国や地域の状況は異なっても、気軽に利用できる場所が地域にあるという点は共通していると考えたのです。
ある大学のプロジェクトで、障がいのある方がスタッフとして働くコミュニティカフェの運営に携わったときのことです。ここでは、単にコーヒーを提供するだけでなく、地域の福祉施設で制作された作品を販売したり、写真が得意な利用客による写真展を企画したりと、一人ひとりの特技を生かすアプローチを重視していました。活動を重ねるうちに、以前は挨拶も交わさなかった住民同士が、道で会えば声をかけ合い、お見舞いや旅行にまで行くような「緩やかなつながり」が生まれたのです。コミュニティカフェは、単なる飲食店ではなく、社会福祉の実践の場であり、地域づくりの拠点となり得る大きな可能性を秘めているという確かな実感を得ました。
そこから、スタッフのかかわり方や運営上の工夫を明らかにするため、全国調査を実施。当時は先行研究がなく、情報も整理されていなかったため、インターネットで1軒ずつ調べ、「ここだ!」と思う場所を訪問しました。北海道から沖縄まで、多くの現場でお話を聞かせていただいた経験は大きな財産です。ゼロから開拓していくプロセスは大変でしたが、その甲斐あって得られた知見を研究成果として博士論文にまとめ、出版することができました。現在も、コミュニティカフェの立ち上げ支援や運営のアドバイザーをしています。
一方で、全国調査を進めるなかで浮かび上がった深刻な課題が、「運営資金」です。家賃や光熱費が負担となり、せっかくの居場所が消えていく現実を目の当たりにしました。この課題を解決するために、現在は「コミュニティファンド」の研究にも力を入れています。市民からの寄付で地域の公益活動を支える、あるいは企業が「地域の一員」としてかかわれる仕組みづくりを目指し、社会福祉関係者に限らず、多様な主体が協力する支援モデルを模索しています。
現場の声を力に社会全体で支え合うビジョンを描く
研究者としての最大の喜びは、何と言っても現場の方々とのふれ合いにあります。
調査の際に運営者の方から「他のコミュニティカフェではどうしているのか」と質問されるケースもあり、私の研究が各地の運営者をつなぎ、好影響をもたらしていると実感しました。改めてこの仕事の意義を再認識しています。研究で行き詰まったときも、インタビューで出会った方々の顔や、アンケートの自由記述欄につづられた切実な思いを振り返ることで、自らを奮い立たせてきました 。
今後の目標は、コミュニティカフェをはじめとする地域拠点が存在し続けられる社会を実現することです。居場所を必要としている人のための拠りどころを、決して失くしてはなりません 。めざすのは、「社会福祉は関係者だけのもの」という狭い枠組みを飛び越え、地域住民や一般企業が「地域を構成する一員」として当たり前に支援し合える社会です。また、コミュニティカフェには生活困窮やDV、介護の相談に訪れる人もいます。そうした声に向き合い、専門機関とどのように連携を図るのかも考えていく必要があります。より広い視野で地域をとらえ、研究成果を社会に還元していくことで、誰もが孤立せずにつながり合えるビジョンを形にできれば、こんなにうれしいことはありません。
福祉を学ぶ人へ
多くの人に出会い、さまざまな経験を重ねること。社会福祉に限らず、多様な領域に目を向けること。日本社会事業大学を志望する皆さんには、この2点を大切にしていただきたいです。かつて私が途上国で「社会開発」に携わった際は、「貧困」という課題に対し、金銭的支援ではなく農業や環境保全の側面からもアプローチしました。そこには、様々な分野の専門家たちが実質的な「ソーシャルワーカー」となり、命の営みを支えている姿がありました。この経験から、人を支えるには「福祉」のみならず、多角的な視点が必要であると実感しています。また、地域にはいろいろな人がいて、各々大切にしている価値観があります。ぜひ、たくさんの出会いを通し、多様な生き方を知ってください。映画や読書を通じて、他人の感情にふれることも立派な経験です。さまざまな人々とかかわる専門職になるために、経験を積み重ねて「人を理解できる力」を育んでほしいですね。